DV施策における男女平等を求める意見書

2020年1月7日

内閣府

男女共同推進本部長 安倍晋三 様
男女共同参画担当大臣 橋本聖子 様
男女共同参画局長 池永肇恵 様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

常日頃より男女平等への取り組み、ありがとうございます。 私たちは、男女問わず家族間暴力の防止の活動に取り組む団体です。子育ての男女平等を目指す観点から、単独親権制度を撤廃する民法改正を促していますが、その際、共同親権に移行すればDV・虐待施策の障害になるとの主張がなされており、議論の混乱を招いています。  

私たちは、現在のDV施策が、男女平等から大きくかけ離れ、家族間暴力の防止という目的に対しても十分に機能していないことについて指摘するとともに、それを親権の有無の議論と混同することに対しては、家族間暴力防止をむしろ妨げることになると認識しています。

子育ての男女平等に沿った親権制度の改革については、主管官庁である法務省での議論と切り離し、一方でDV施策についての所管官庁である貴局が、男女平等と暴力防止の観点から主体的な役割を果たし、双方の施策を減殺しあうのではなく、両立させる努力を払うべきであることを述べ、以下現状を指摘し、各点を要望したいと思います。

【現状】単独親権制度がDVや虐待の抑止になっているという主張に根拠がないこと

(1)単独親権でDV や虐待が増え続けている

現在、表記のような主張のもとに、DV 施策に親権制度を活用できるかのような主張がなされています。 しかし実際には単独親権制度のもと、DV や児童虐待の相談件数は年々過去最多を数え続けています。また、DVは婚姻中の共同親権のもとで起きていますし、逆に児童虐待は単独親権のもと、実父母家族よりも、ステップファミリーの親やひとり親が加害者となるケースがむしろ多くなっています(中澤香織「家族構成の変動と家族関係が子ども虐待に与える影響」)。

このことは、子どもの安全への配慮がもっとも適切になされているのは、父母が子どもの養育にかかわっている場合であることを示しています。

面会交流中の殺人事件の発生を根拠に、面会交流の促進を懸念する意見もあります。しかし、加害者側が、子どもと会えなくなり人生に希望を持てず、絶望し、また、将来的にもこのまま会えなくなるかもしれないという恐怖心が働いている可能性もあるのなら、事件の原因は親子関係が保障されないことにあり、それを放置する単独親権制度です。

同居親や婚姻中の夫婦の間の事件を無視して、ことさら別居親の危険性を言い立てるのはヘイトです。

(2)共同親権になって虐待が増えるわけではない  

また、共同親権になると、子どもが虐待される危険が増すという議論もあります。 現在、虐待の加害者で一番割合が高いのは実母(厚生労働省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」)で、例年半分以上の割合を占めています。

一方、親権者の8割が女性ですが、虐待の加害者のうちひとり親家庭の占める割合は約3割です(全国児童相談所長会「全国児童相談所における虐待の実態調査)2008)。数字的に、男性が養育にかかわることが危険なら、それは同居中も同様で男性の子育てなど危険すぎて促進できません。こういった議論にも根拠がありません。

(3)加害者も単独親権者になっているのに単独親権や選択的共同親権を暴力防止のために擁護できない

共同親権によってDV被害が永続する、との懸念から、単独親権制度を存続させ、共同親権にしても選択的共同親権にすべきとの議論があります。

しかし、現在の裁判所の判断が、子どもを確保した側を自動的に親権者にするのは、DV被害者支援団体や弁護士事務所のホームページにそのように書いていることからも明らかです。  単独親権者にDVや虐待の加害者が多く含まれているのに、このような議論は前提として成り立ちません。

実際に当会には、女性配偶者からの暴力被害の経験があり、また同居親側による子の虐待の証拠を持っているにもかかわらず、子どもに会えない親からの相談を多く受けます。子どもといったん離れれば一生子どもと会えなくなるのは女性被害者も同様です。 「共同親権によってDV被害が永続する」どころか、「単独親権によってDV被害者の権利は守られていない」「単独親権によって加害者のDVが子に転嫁する危険が高い」「親子引き離しというDVが単独親権のもとに継続している」のが現実です。

つまり、単独親権制度がDVや虐待の抑止になり、共同親権になったらDV や虐待が増えるという議論に根拠はありません。

日本のDV 施策が、共同親権の欧米の施策を取り入れて進められてきたことを考えると、日本のDV や虐待の相談件数の増加は、単独親権制度を維持していることに原因を求められ、共同親権がDVや虐待の抑止になるという議論はできても、その逆ではありません。 

もとより、民法上、親権者の権能として、「子どもから親を引き離すことができる」という規定はどこにもありません。単独養育者が実力で子どもから親を排除していることは、たとえ親権がなくても他方親の権利を侵害する行為です。その際、日本は単独親権制度で、離婚や未婚の場合は制度上一方しか親権を選べないだけであることを考えると、こういった行為を容認・放置することは共同親権の国以上に、はなはだしく親の養育権を軽視していることになります。

権利侵害を守るために、根拠のない単独親権によるDV や虐待の抑止論を持ち出すことはできません。  以上指摘して、以下の要望をします。

1 DVに関しては、現在の民事的な対応ではなく、刑事的な介入によってください。また現場担当者の数は男女半々にしてください。

現在のDV施策は、民事的な対応についての支援という手法が第一にとられ、刑事的な対処や手続きが初期段階で適用されることはまれです。刑事的な手続きでは、証拠主義に基き双方に事情聴取がなされ、犯罪の要件に該当するかどうかは、裁判手続きを経ることになります。海外で暴力の抑止命令を裁判所が出す場合も刑事的な関与があります。

しかしこういった介入が初期段階で避けられ、日本では民事的な対応がなされるため、先に被害を申告した側の言い分のみで支援措置がなされ、保護命令手続きを経ない限り、加害者とされた側の言い分を聞き取る手続きがありません。そして一方の申告だけで自治体窓口でなされる住所非開示の支援措置には取り消しの手続きがありません。行われているのは暴力の防止ではなく「被害者」というタイトルをめぐっての争奪戦です。

これらは、親権争いの現場で悪用され虚偽申告の温床になるだけでなく、法が保障すべき適正手続きを無視しており、実際に裁判所もその違法性を指摘しています(2018年4月25日名古屋地裁判決)。相談履歴のみで住所非開示措置は発令されるので、物理的な暴力のない場合でも、被害感情があれば保護され、双方が修復的な支援を受ける努力をする機会も奪われてしまいます。

一方、「加害者」とされた側は、自身の暴力を認識する機会も、嫌疑を晴らす機会もなく社会的に排除され、さらに子どもと引き離されることによる憎悪から暴力の誘発を生んでいます。今年東京家庭裁判所の前で殺人事件(2019年4月15日)が起きたように、実際に子の奪い合いにかかわる事件は度々起きていますが、このような事例で同居中にDVがなかったのであれば、制度が事件を引き起こしているということになります。

「DVは犯罪」ならその主務官庁が第一に取り組むべきで、男女平等の取り組みの中でDV施策が培われてきたのなら、警察担当者は男女半々で現場に出向いてください。現在のDV施策が暴力を生み出す事態を放置してはなりません。  

2 DV施策における保護施設は、男女平等に基づいて設置運用してください。

理由)現在のDV施策は、女性しか被害者として想定していないため、保護施設に避難できるのは女性のみで、男性は子を連れて逃げるのが困難なため親権者となれず、それが親権取得者の8割が女性という実体を作り出しています。 内閣府の最新の調査(2017年度「男女間における暴力に関する調査」)によれば、女性の3人に1人、男性の5人に1人がDVの被害を訴えており、過去1年間のDV被害の申告数は男性の比率のほうが高くなっています。

こういった実態にもかかわらず、女性のみを収容支援することで、男性被害者への加害行為を公的機関が支援する事態を引き起こしています。実際に当会に相談に来る男性で、シェルター等で保護された女性から暴力を受けていたという事例は少なくありません。 また、暴力防止のため、一時的に双方を引き離すことが支援として必要な場合には、子育てをする女性ではなく、男性側を加害被害問わず収容したほうが目的にかないます。最低でも、暴力被害の性割合に応じたシェルターの数を確保し、男性の入れるシェルターを各都道府県に設置してください。

3 公的機関の暴力防止の相談窓口の担当者の割合を男女同数にして、男性の暴力被害への研修を実施してください。    

(理由)過去当会が受けた相談の中で、自治体の男女共同参画センターに男性が電話したところ、いきなり「加害者からの相談は受け付けていません」と言われて傷ついたという事例がありました。子育ての男女平等を啓発するパンフレットを市町村の女性相談窓口で設置を拒否されたこともあります。男性会員が多い当会からすると、女性相談においては男性を潜在的な加害者として、役所の男性への人権侵害を容認しているとしか見えない対応です。  

先の保護施設の件でもそうですが、自治体が男性相談を受け付けている場合でも、その後の具体的支援に女性と違って結び付いたということはまずありません。女性の権利の視点から女性のみを支援の対象としてきた経過を反映していたとしても、男女平等を掲げている部局で、このような特定の性への人権侵害が容認される余地はありません。  

女性と同等・同質の支援を男性も受けられるように、担当者の男女比を半々にし、女性担当者でも男性が望めば相談を受け付けること、男性への暴力も含めた男性への人権侵害行為の研修を市町村の担当の全職員に施すことを、各区市町村に指導してください。

4 男性が暴力被害を認識できるキャンペーンを行ってください。    

(理由)精神的なDVも含めた男性のDV被害の割合は過去1年においては女性よりも高いにもかかわらず、メディア等では、男性が暴力を受けることは嘲笑の対象となっており、男性が被害を認識しにくい風潮があります。また、DVを認識させるキャンペーンは女性のみを対象とし、広報宣伝物も女子トイレなど女性専用施設のみに設置されています。性を問わずDV被害を認識できるように、女性に対する暴力と同様の啓発キャンペーンがなされているのと同様、男性も対象に、男女平等にキャンペーンを行ってください。

5 親の養育権を保障する手続きを確保し、連れ去り被害者への面会交流支援を、各女性相談窓口で業務に組み入れてください。

(理由)現在の配偶者暴力防止相談センターや男女共同参画センターの支援においては、親の養育権に対する考慮がないまま親子を引き離し、良好な親子関係の維持回復への支援はありません。女性支援の団体が面会交流支援をする場合も、相談履歴だけで「加害者」とされているだけにもかかわらず、男性を一方的に危険視し、いかに監視するかという視点だけで支援がなされている事例を聞きます。  

とくに自治体の住所非開示の支援措置については、一度出されれば異議申し立てがなされる手続きすらなく(あっても認められた事例は皆無)、永久に親子関係を引き離すことができるので、それを防ぐために先に子どもを連れ出して、今度は誘拐罪で告訴されるという事例が増えています。現場担当者の主観で親の養育権への過剰介入が行われ、混乱を生み出していまず。改善を求めます。

暴力の有無にかかわらず、子の連れ去りが頻発するのは、一度子どもを手放せば二度と子どもと会えなくなってしまうということを、メディア等で一般市民がすでに知ってしまっていることが大きく、これは双方の養育権を保障する仕組みがないことが原因です。そのため、被害者もいかに危険でも子連れで逃げることを強いられ、そのためにいかに相手の隙をつくかが成否を占うことになっています。

昨今の児童虐待による殺人事件も、単独養育や親権者の再婚相手が加害者となっており、その割合が高いことは先に述べた通りです。他方親の関与が虐待防止の観点からも求められます。

つまり私たちは暴力防止の見地からも共同親権を求めています。  

実際、父親から子どもを引き離して逃げ続けることになるのをためらっているうちに、逆に夫に子どもを連れ去られ、女性相談に行くと「もうちょっと早く来てくれれば」と言われるだけだったという別居親の相談を当会は受けたりします。子どもへのDVの危険を言っている支援が、まったく思考停止です。  

性別・加害被害にかかわらず、親子関係を保障することも子育ての男女平等のための支援の一環であることを各現場レベルに周知し、アドボケイトや弁護士紹介などの面会交流支援を女性相談の業務に組み入れてください。