DV保護命令の対象拡大を目的とした法改正についての意見書

2022年1月14日

男女共同推進本部長  岸田文雄 様
男女共同参画担当大臣 野田聖子 様
男女共同参画局長   林伴子    様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

常日頃より、男女平等に向けた取り組みをありがとうございます。

【当団体について】

私たちは、家族間暴力の防止に男女平等の立場で取り組む団体です。

子育てにおける男女平等を目指している別居親団体が母体ですが、日常的に脱暴力の支援を男女の区別なく行っており、DV防止の活動団体でもあります。

具体的には、「自助会」「脱暴力のグループワーク」「カウンセリング」「性別によらない加害・被害の当事者に冷静で合理的な対応を促す」などの活動を実施してきた経緯があり、当団体の主目的ではありませんが、DV防止に貢献してきた経緯があります。

【意見書提出の理由】

2021年(令和3年)11月29日 月曜日 読売新聞(朝刊)第1面に、いわゆる「DV防止法改正案の素案」(以下「素案」)が判明したとの報道がありました。

内容としては、裁判所の出す保護命令の対象に、モラル・ハラスメントなどを新たに加えることなどが判明しています。

DVは、男性が女性に対してふるうものばかりではありません。内閣府の調査(2017年度「男女間における暴力に関する調査」)によれば、女性の3人に1人、男性の5人に1人がDVの被害を訴えており、過去1年のDV被害の申告数は女性よりも男性比率が上回っています。しかし、このたびの「女性のためのDV~」では、被害者を女性に限定し、さらにDV保護命令の対象行為を拡大する内容となっています。

DVの防止に総合的に取り組んできた当団体としては、この内容は全く許容できるものではありません。

したがって、より実効性のある、合理的なDV被害者保護・支援を実現するよう、法改正素案で欠落していると思われる考慮要素を指摘、意見させて頂きます。

Ⅰ 保護命令の現状

DV保護命令というのは、そもそも懲罰的意味合いが強く、DV被害者の保護機能を果たしているわけではありません。

(1) 支援の目的を明確にすべき

保護命令は被害者の自己申告によって加害者をレッテル貼りし、「みなし加害者」から保護することを主目的としています。

安全の確保を期間限定にすれば、期間終了後は効力を失ってしまうので、永遠に「加害者」を「加害者とし続ける」ことが必要になり、本来は被害者を保護するための法令が、加害者の行動に制限を加えるための法令となり、手段が目的にすり替わります。

このように人権を無視して、回復不能な名誉棄損を伴う社会的な制裁を加え続けることが、果たして法制度として許されるものでしょうか?

(2) DV概念拡大の危険性

同じく、DVの概念を拡大すると、何でもDVと解釈され、深刻な状況に陥った被害者の申告が信用を失う可能性が生じ、行政サイドの保護の手控えを促す危険があります。また、判断を担当する行政職員のプロ意識も下がります。

Ⅱ DV保護命令を十分に機能させるための手続きが必要

(1) 刑事的介入の必要

現在のDV施策は民事的な支援という手法が第一にとられていますので、刑事的対処と手続きが初期段階で適用されることはまずありません。

これでは、審査の公平性を担保不能で、加害者とされる側の人権を著しく軽視する行為となりますので刑事的介入を求めます。

(2)厳格なDV審査を

「素案」では現行法と変わらず、自己申告のみで行われるDV支援措置を制度として放置している形のため、保護命令の審査が公正に機能するとはとても思えません。
 現在、行政によるDV支援措置は、被害を申告した側の主張だけで、審査が一切されないまま措置決定がなされ、加害者とされた側の主張を聞き取る手続きが存在しません。

また、自己申告による被害だけで自治体窓口が住所非開示にした場合、DV支援措置に取り消しの手続きはありません。この制度が現在、親権争いの現場で悪用され、虚偽DV申告の温床になっていることは、何度も指摘してきました。さらにこの制度運用が、法が保障すべき適正手続きを無視していることは、実際に裁判所もその違法性を指摘しています。(2018年4月25日名古屋地裁判決)

(3) 家族の分断と暴力助長の恐れ

適正手続きを経ないと、かえって暴力が行われる危険があります。

自己申告によるDVで加害者とされる人物を遠ざけることができるのだとしたら、申告次第でいかようにも、親子の分断が可能になります。 

DV案件における養育権の確保は長らく問題とされており、夫婦・カップルの同居中にDVがなかったのに、一方の側から悪意をもって「DVの加害者」と仕立てあげられた場合、現行システムではかえって憎悪を増幅させる結果となり、暴力誘発にもつながります。

Ⅲ 加害者とされた側への適切な手続き保障

(1)     人権保障と暴力抑止の側面からの保障がされるべき

裁判所で保護命令を受けることは、家族関係を修復する機会を裁判所によって奪われることになりますので、現に危険がある場合は刑事的関与、同時に家族関係の困難については修復的支援やソーシャルワーク的な支援を強化する必要があります。

加害者更正プログラムは暴力事件発生後の、事後的対処に過ぎません。充実したカウンセリングを提供する相談窓口を設けるなど、修復的支援への導線の確保が急務です。

(2)    公正性担保のために刑事的関与を

刑事的関与については、双方の主張を公正に判断する手続きを保障するという側面でも必要です。捜査権などの権限がなく、従って判断能力に欠ける「配偶者暴力支援センター」などへの通報を根拠に保護命令の対象とするのは、加害者とされる人への人権の配慮がなく、恣意的な運用によって「無実の加害者」を作り出すこともできるシステムですので、容認できません。

(3)    人権侵害の危険性を排除せよ

「素案」ではDVの適用範囲が大幅に拡大され、暴言など何らの証拠も必要としない行為までが保護命令の対象となります。これは、ある特定の人物の行動を恣意的に制限するためにも使うことができる法制です。

「素案」のままでは、政治的な悪用の危険性、犯罪に利用される危険性、重大な人権侵害に直結する危険性があり、その危険性を排除するためにも、刑事的介入も含めた厳密なDV審査の担保を法案には追加することを求めます。

Ⅳ 男女平等の観点から

(1) 男女平等なDV支援策を

性によって加害と被害をわけたことは、全く容認できることではありません。

男女共同参画局にて本件を審議した会議体が「男女共同参画会議 女性に対する暴力に関する専門調査会」ということからも明白なように、「素案」では、DV被害者に女性しか想定していません。そのため、際限ないDV概念の拡大が必要になり、女性が男性を支援することも困難になるので、結果的に有効なDV施策を内閣府が自ら阻んでいることになります。

基本支援は男女共に担えるようにするためも、担当部局(共同参画局やワーキンググループも)の男女比を同数にし、相談者は応対する人の性を選択できるようにすべきです。

(2) 男性被害者の人権重視を

過去1年申告数によれば、精神的DVも含めた、男性のDV被害の割合は女性より高いにもかかわらず、女性に対する暴力のみを取り上げて対策する「素案」は現場の男性被害者の人権を全く無視しています。

(3) 法による男女格差の固定化は解消すべき

男女の性役割による構造的対立や不満を解消するために、法制度における男女格差の固定化(単独親権制度、養育費の一方的荷重負担)は解消すべきです。

以上