法制審議会の進行のあり方についての意見書

2021年6月15日

上川 陽子 法務大臣 様
大村敦志 法制審議会家族法制部会座長 様

長野県下伊那郡大鹿村大河原2208
共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

私たちは、子どもと引き離された経験のある親を中心に、単独親権制度の廃止を求める団体です。2019年に憲法の平等原則に反して単独親権制度を温存し続ける国の立法不作為を問う、国家賠償請求訴訟を提起しました。その後、法務省は親子法における論点整理として、商事法務研究会の家族法研究会として議論を重ねており、報告書が公表されています。しかしながら、単独親権制度の問題点について現場を理解する意欲すらなく、別居親子の関係について、配慮することを過剰に恐れた忖度ぶりの、たるい報告書に正直呆れました。

この報告書について、私たちは「案」の段階の今年2月9日に、総理大臣、法務大臣宛に意見書(以下「2021年2月9日第1意見書」資料1)を出しています。この「2月9日意見書」については、法制審議会家族法制部会で生かされていませんので、議論に活用していただきたく、あらためて、法制審議会家族法制部会宛に本意見書(「2021年6月15日第2意見書」における資料として、家族法制部会宛に提出いたします。

 私たちの団体は、国を訴えたため、現在法務省民事局参事官室から請願法に反して面談を拒否されています。この度、法制審議会のメンバーを見て、ちょっとびっくりしました。私たちが訴えた訴訟の被告側で代理人を務める民事局参事官室の担当者、責任者が、幹事のみならず委員を務めています。日々メディアで話題になる訴訟について無視するどころか、一方の側に与する人選による議論は、明らかに国民を愚弄し中立性に反します。

 それだけならまだしも、現在親権に関して国を訴えている複数の訴訟においては、家庭裁判所の運用にかかわるものがありながら家庭裁判所の現職裁判官が参加し、また国賠訴訟の決定に最終的な責任を持つ最高裁判所の事務総局(裁判官)が幹事及び委員を務めています。「問題がある」と問題提起された部局の担当者が委員に名を連ねる委員会の議論は議論を誘導するためのものであり、「公務員の保身」と言われても仕方ありません。

 言うまでもありませんが、大臣の諮問に対して部下が委員を務めるなど他の役所や官庁の審議会では、「お手盛り」「利権の擁護」として厳しく批判されるので、通常そのような人選は避けられます。何十年もそうやってきたのなら、何十年もおかしな運用が続いてきただけで理由になりません。この点指摘して、法制審議会の運営に関する意見及び議論の内容についての意見を以下述べます。

【運営に関する意見】

1 裁判所及び法務省担当部局の代表者を委員から排除してください。

2 現在進行している親権に関する国賠訴訟の原告の代表者からそれぞれヒアリングをする機会を設けてください。

【進行・内容に関する意見】

1 「親の権利(あるいは「養育権」)」は「基本的人権」に該当するどうかについて全委員に意見を述べてもらい、初めに審議会としてコンセンサスを取ってください。これは全ての議論の基礎となる極めて重要な点であり、この点について共通理解が存在しないまま各論に入るというのは、全く意味がない進め方です。

 「親の権利(養育権)が「基本的人権」に該当しない」という主張は、それぞれの子どもの養育者が誰であるべきか、最終的な判断権限を国が独占することを前提としています。これは「国家主義思想」そのものです。

2 婚姻中は共同親権とされている立法趣旨は何なのか、なぜ国民の圧倒的な支持を受けているのかについて全委員に意見を述べてもらい、初めに審議会としてコンセンサスを取ってください。

 言うまでもなく、婚姻中の共同親権が幅広く支持されているのは、これが親子両方にとって最適な制度だからです。離婚後を含む婚姻外共同親権について考える際には、こうしたコンセンサスに基づいて、「様々な制度整備を行ったとしても、婚姻外ではどうしても達成できない点はあるのか」といった観点から検討を進めなければなりません。

 どんな制度であっても、欠点といい得る点は探せば必ず存在します。そうした点だけを俎上に挙げて「だから単独親権なのだ」などというのは、結論ありきの全く無意味な議論です。

3 共同親権の是非とDVは全く無関係であることについて、まず審議会としてコンセンサスを取った上で議論を進めてください。

 日本のDV対応は行き詰まりを見せており、特に「多くのケースで被害者が逃げる以外に方法がない」というのは、世界的に見ても常軌を逸しています。抜本的な改革(特に男女平等な被害、加害者対応と双方の手続き保障、刑法化による公的介入)について検討が必要であることは明らかであって、そのことと共同親権の是非は全く関係がない問題です。

 DV対応は、DV防止法やその運用体制の抜本的な改善で行っていくものであり、婚姻外について単独親権を一律に強制する立法趣旨が「DV対応」などというのは、法律論として全く成立し得ません。これが分からない委員はそもそも法律の専門家と言えるのでしょうか。

 以上について委員から反論があるのであれば、現在係争中である3件の単独親権国賠訴訟において、国が「単独親権を一律で強制する立法趣旨はDV対応である」などと主張していないのはなぜなのか、まずは説明を求めるべきです。

4 3月30日の審議において原田委員は、「子の養育への関与については子どもの一人一人の状況が異なっていて,一律に基準や原則を決めることになじまない」など述べていますが、こうした議論を混乱させるだけの全く無意味な主張は、きちんと排除してください。

 法制審議会の目的は、家族法に係る制度設計について検討することです。「制度設計を行う」というのは、「デフォルトを定める」のとほぼ同義です。多様な意見が提出されること自体は否定されるべきではありませんが、こうした審議会のそもそもの目的に反する意見は単なる攪乱要因で、議論の妨げです。

 しかも、この委員の主張を見ると、明らかに「現行の単独親権のデフォルト維持」を主張しているにも関わらず、そのことを「一律に基準や原則を決めることになじまない」などという、聞こえだけは何となくもっともらしい抽象論で隠蔽しています。こうした極めて操作的な欺瞞を放置したまま、議論を進めるべきではありません。

5 3月30日の審議において水野委員は「子どものため」と言いながら、リソース不足を所与の前提として「日本の家裁の体制で,西洋並みに全てを裁判離婚にするという解決は現実的ではありません」など述べています。こうしたおかしな主張は、きちんと排除してください。

 ここで述べていることは単なる個人的な政治信条で、法学の専門家としての知見とは無関係です。にもかかわらず、あたかもこれが法学的に見て当然の考え方であるかのような欺瞞を述べています。

 リソース不足が所与の前提なのであれば、「現行制度は何も変えられない」という結論になるのが論理必然です。これが結論なのであれば、法制審議会を開催する必要性はどこにもありません。法制審議会の場では、何が子どもにとって一番良いのか、現行制度を所与とせずにフラットな立場から議論すべきです。

 もちろん、実際の法改正にまで至った場合には、必要なリソースをどのように確保するのか、国会等の場で議論が必要でしょう。しかし、それは最終的に立法・行政府が責任をもって行うことであって、そのはるか前段階において、学者が政府に忖度して「リソース不足」を所与の前提とするというのは、驚くべき倒錯です。一体これのどこが「子どものため」なのでしょうか。

6 現在、裁判所での親権指定において、女性が親権者となる割合は93%です。言うまでもありませんが、結婚にあたり96%の女性が男性の姓に合わせることが、ジェンダー平等に反するという議論は当然にしてあります。であれば93%という数値も同じくジェンダー平等に反します。

こういった数字の割合は、男性の育児分担の障害となっており、女性に単独育児を押し付ける根本原因です。ひとり親の貧困や低い養育費の回収率はこういった運用にも原因があります。単独親権制度のせいで、男性は養育費を払おうとするインセンティブを失わされるからです。

そして本審議会は、法務大臣から「父母の離婚に伴う子の養育への深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み」、子の利益についての検討を行うよう求められています。あらかじめ、養育費と養育時間(面会交流)をリンク付けないように議論の方向性を恣意的に曲げることは、これら大臣の諮問の意図をあらかじめ軽視するか、あるいは、男性には子どもについての発言権はないという、ジェンダーバイアスに基づいたものです。

 男女平等の観点から、単独親権制度の是非について、正面から取り上げる議論をしてください。