法制審議会での親権議論開始 単独親権制度廃止を求める意見書

2021年2月9日

菅 義偉 内閣総理大臣 様
上川 陽子 法務大臣 様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会
担当 宗像 充

  私たちは、子どもと引き離された経験のある親を中心とする団体です。2019年に単独親権制度を温存し続ける国の立法不作為を問う、国家賠償請求訴訟を提訴しました。その後、法務省は家族法制における論点整理として、商事法務研究会とともに、家族法研究会として議論を重ねており、報告書(案)が公表されています。

 2021年2月10日に、法制審議会において「離婚後の子の養育の在り方を中心とする家族法制の見直しに関する諮問について」(仮称)が議題にかけられます。私たちは法廷において直接、親権制度、親子法制に関して国と論戦していますが、商事法務研究会の議論と国との論戦を踏まえ、ここで法制審議会に向けての私たちの意見や懸念事項をあらためて届けたいと思います。商事法務研究会の議論の推移については、以下の各点を指摘し、法制審議会における議論への反映を求めます。

1 商事法務研究会の議論は立法事実としての親子引き離し問題を意図的に無視している。

 今回の商事法務研究会の議論は、建前上一定の方向性を定めず論点整理をすることが目的とされています。一方で、養育費の不履行問題の解決が、ひとり親家庭の貧困とからめて、報告書(案)において多大な紙面を割いているのに比べ、面会交流については「個別の事情によるところが大きく、一律の取り扱いをすることは困難」という委員意見のもと、履行や指針についての議論を手控える傾向が多々見られました。

 こういった議論は、養育費も個別の事情によりながら算定票を設け、強制執行の手続きが種々検討されていることを踏まえると、「親子が会えないことなどたいしたことではない」という偏見に基づく「すり替え」です。特に、裁判所の現在の面会交流の決定は、月に一度2時間程度という、きわめて貧回な「交流」を一律に適用しており、「個別の事情」に応じた決定など何らなされていません。そして、このような養育時間の適用によって、その後関係が途絶えてしまう親子が頻発している報告を、日々私たちは相談で受けています。詭弁です。

 親子の引き離しが人権問題であり、単独親権制度によって引き離し行為が正当化されているという問題点がない議論は、この点についての解決に何ら至ることはありません。今後の法制審議会での議論において、以下を求めます。

【意見1】親子引き離しの多発が立法事実であり、それが親権制度に起因する制度的な問題であることを踏まえて、共同親権の導入ではなく単独親権制度の廃止について正面から議題に取り上げてください。

2 議論が「離婚後」の問題に限定しため、単独親権制度の必要性についての丁寧な議論が行われていない。

 単独親権制度は民法818条、819条に規定されており、立法不作為の国家賠償請求という形で、国がその存続について司法の審査を受けている最中でありながら、その民法上の規定についての言及が今回の報告書(案)に一切ないことには、びっくりします。

 もちろん、共同での決定事項に関する論点整理や、協議離婚時の養育計画の作成についての論点整理についてはなされているものの、これらで検討された各選択肢が、現状の単独親権規定によってどのように制約を受けるかについての議論がなく、親権喪失や親権停止時の親権者の権利との均衡についても不明で、他の民法上の条文との整合性について見通すことができなくなっています。

 こういったフワフワした議論がなされているのは、もともと離婚後の子の養育について議論を限定したために、もとより、単独親権規定を婚姻外に限定することの合理性についての検討がなされず、もともと男女平等や子どものためには共同親権がよい、という民法が共同親権を採用した際の前提事項が、事務局および委員の間でも共有されていないのが原因です。この点については過去、私どもはすでに要請を行っているところですが、重ねて以下を求めます。

【意見2】婚姻中の共同親権については幅広く国民の支持を集めていることは、議論に際し重要な前提であることを確認して、法制審議会で一定のコンセンサスを取ってください。

その上で、婚姻中の共同親権の各メリットについて、婚姻外では実現困難である点はあるのか、あったとしても制度整備や運用の改善で対処し、もともとあるはずの共同親権のメリットは実現できるのではないか、あるいはどうしても不可能な点はあるのか、という観点から議論を進めてください(もちろん、デメリットについての議論も必要だと考えます)。その際、婚姻内外問わず、子どものことで意見が分かれた際の、親どうしの意見の調整方法について検討してください。

3 性役割を前提とした議論に終始している。

今回の議論は全体として、養育費と面会交流を分けて考え、どちらかというと、養育費の履行を確保するために、面会交流の議論はアリバイ的に議論しています。それは、養育費についてのみ履行確保の手段をとり、面会交流についてはそうではないといった選択肢が恥ずかし気もなく提案されている点からも明らかです。要するに、「子どもは金があれば育ち、親に会えなくてもたいしたことではない」「金をとるためには多少は会わせないとならない」という事務局と委員の差別意識を、今回の報告書(案)は反映したものです。

 ところで、現在の親権取得の割合は女性が8割であり、裁判所の決定では93%になります。その決定に際し、司法内でジェンダーバイアスがまかり通っているのは明らかであり、それが「連れ去った者勝ち」とも言われる、子どもの実効支配のルールを温存している理由となっています。この点について男女平等の観点からの是正を求める意見が一切見られないのは、びっくりします。

この点についてデータに基づいた議論がなされていないので、DVや虐待の場合においては、支配被支配の関係が続くので、速やかに離婚を成立させたほうがよい、あるいは共同決定の例外とする、といった単なる印象論に基づく雑な議論がまかり通っています。結果、単独親権制度を前提に、どの程度共同決定の範囲を拡大するかという倒錯した結論になっています。

したがって、商事法務研究会では、子どもに関する重要な決定事項についての共同化についての議論はなされていますが、本来男女平等の観点から検討されるべき、養育時間の折半による共同監護については議論されていません。本来であれば、養育費の議論も、養育時間に応じた養育費の負担割合(いわゆるトレードオフ)がなされた上での履行確保の議論でなければなりませんが、その点については一切触れていません。

また、男女がDV被害を受けた割合は2対3であり、虐待の加害者でもっとも多いのは実母です。データから見る限り、単独親権者にDVや虐待の加害者が少なからず含まれているのは明らかです。その点について、むしろ、DVや虐待施策が適切に機能していないことを前提に議論しなければ、性によらず、DVや虐待の被害者が子どもと引き離され、高額な養育費を請求されて、支配被支配の関係が続くという、現在も生じている悲惨な結果が、法改正によって強まり、DVや虐待の問題を悪化させかねません。よって以下を求めます。

【意見3】共同監護について機会均等の観点からの法制度の議論を行い、裁判所の決定について、主な監護者についての参照項目について列挙するのではなく、共同監護の採否の主要な参照項目を明示してください。その際、監護に関するあらゆる決定において、性差による判断を禁じ、いわゆる「フレンドリーペアレントルール」を他の参照項目より重視するよう規定を設けてください。

【意見4】DVや虐待の問題については、永続的な親子引き離しを民法上正当化するのではなく、長期的な観点から親子関係の維持が可能になるよう議論してください。その際、刑事的な関与の強化や、加害・被害問わず、男女平等なDVや虐待の脱暴力支援の施策の進展を促すよう、法制審議会から担当官庁に要請してください。

4 別居親の意見、生活実態に基づいた議論が欠落している。

 商事法務研究会の意見はすべてひとり親に関する実態調査をもとにしており、別居親団体の代表者の意見はあっても、別居親の意見は一度も直接聞かれたことはありません。意図的に別居親を排除して意見交換したと言われても仕方ない議論で、議論の比重が、一部のひとり親団体の意向を重視した、経済的な側面に偏るのは当たり前です。よって以下を要求します。

【意見5】単独親権制度が親子の引き離し問題にどのように影響しているのかという観点から、別居親、および子どもと引き離された被害者に対する包括的な聞き取り調査を実施し議論に反映してください。同様に、別居親の関与を求める同居親、婚外子の母、および離婚を経験した子の意見聴取を積極的に行ってください。

 【意見6】単独親権制度の廃止、共同親権・共同監護への転換に関する国民的な議論を促すため、法務省が主催して各地で賛成反対の公開シンポジウム、討論会の開催を行ってください。