新型コロナウイルスに関わる面会交流指針の撤回 及び 双方の親の養育時間確保のための支援の申入

令和2年5月6日

法務大臣 森 まさこ 様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

令和2年4月30日に法務省ホームページにて「【新型コロナウイルス感染症情報】面会交流について(以下「本指針」という)」が掲載されました。法務省よりコロナ影響により本内容が発表されたこと自体は、国が取り組むべき課題として認識されたという点で、指針が発表されなかった以前よりは前進し歓迎されうることと考えております。
しかしながら、本指針の要点としては、
①新型コロナウイルスの感染症流行時において対面での面会交流を制限し、ビデオ電話等での面会交流を推奨する内容
②民法で決められた面会交流を当事者任せとする内容
であり、今後1年以上に渡り、続くと考えられるコロナ影響下において、親子関係を制限し続け、更なる人権侵害をうむ内容です。

その理由を次に示します。

理由1 ビデオ電話等での面会交流は、直接過ごす親子の時間の代替になりえない。
ビデオ電話等を用いたリモートワークは、業務の継続という視点から考えても否定するものではありません。しかしながら、親子関係においてはビデオ電話等を用いたリモート子育ては成り立つのでしょうか。「抱っこ」、「おんぶ」、「ブランコを押す」、「寝かしつけ」、「食事をつくる」、「工作を一緒にする」、「洗濯をする」、「看病をする」など、親子の生活はリモートだけでは出来ません。万一子どもを一人にしてリモートだけで親子のコミュニケーションをする環境だけを用意した場合、子どもは死にます。このように、ビデオ電話等を利用した親子のコミュニケーションは、直接過ごす親子の時間の代替になりえません。

理由2 面会交流を当事者任せとしており主務官庁の責任を放棄している。
面会交流は、養育費の支払いと同様、民法766条1項で規定されており、取り決めが促され守らなければいけないと同時に、親の子育ての時間として保障されるべきものです。更に、当事者同士の間での協議書や家裁における取り決めがされていることも当然あります。法を司る主務官庁は、未経験の事態である今こそ、親子の分断を避けるために、法の趣旨を明示し、親子関係を維持すべきことを強力に発信すべき立場にあります。ところが、本指針は全て当事者任せにするものであり、主務官庁の責任を放棄する内容です。

理由3 親子関係の疎外は感染症の予防効果を伴わず、別居親子への差別である。
もとより、面会交流は、二つの両親の家それぞれに子どもが帰宅する行為であり、回数、頻度はいろいろです。また、父母が同居している、別居しているの違いはあっても、それは親による子育ての形式です。別居親子の関係のみが、感染症の拡大をもたらすわけでもないのに、なぜ親の関係が婚姻外であることや別居の親子においてだけ、感染症の予防のために、疎遠な親子関係が是とされるのでしょうか。今回の法務省の指針は、別居親子への差別にほかなりません。

なお、毎日新聞5月3日配信の記事においては、法務省の担当者が「コロナの影響で、面会交流が全くできないとの誤解が一部にある。オンラインの活用などさまざまな方法を子どものために考えてほしい」とコメントしています。
ところが、「共同親権草の根活動」が離婚などで子どもと離れて暮らす親を対象に4月14日~20日の期間、感染拡大が面会交流に影響していないかを調査したアンケートでは、回答者160人のうち107人は感染が拡大する前の今年2月までは面会交流が行われていましたが、このうち44%は感染が拡大した3月以降は子どもと全く会えなくなった、32%が子どもと会う頻度や時間が減少したと答えています。全く会えなくなったと回答した44%の親子関係の断絶を、適切な調査もせずに「誤解」という表現を使い、発表された今回の指針に根拠はありません。また、これらの人の85%はオンラインでのビデオ通話など代わりの形でも面会交流ができておらず、代替的なオンラインの活用が実際にはできないことを示しています。
もとより、取り決めを守らない行為に対して話し合いができなくなるから片親が引き離されているのであり、それをアンケート結果は裏付けています。特に東京家裁ほかの家庭裁判所が職務放棄をして裁判期日を無期延期している中、法務省がオンラインの活用を代替的なものとして推奨したところで、4割以上の親子は関係を回復できません。また、直接過ごす親子の時間が持てている親子もビデオ電話等による交流の指針を出すことで、逆に今以上に疎外される危険が十分考えられます。
このため当会としては、本方針の撤回、及び具体的な支援の再発表を申し入れ致します。

申入事項1 新型コロナウイルスの感染症の流行時の親子分断を認容する本方針を撤回してください。
発表された本方針は、新型コロナウイルスの感染症の流行時の親子分断を認容する内容であり、主務官庁としての責任を放棄するものです。このため、本方針を撤回してください。

申入事項2 新型コロナウイルスの感染症の流行時においても親子関係を維持するための支援をしてください。
具体的には以下のことを求めます。
① 対処方法が未確定な感染症の流行といった未経験の事態である今こそ、双方の親と子どもがともに過ごすことができるための指針を発表してください。
その際、「親が同じ世帯に住んでいない場合、未成年の子どもは両親の家の間を移動することができること」「コロナによる国の自宅待機の要請は一方の親が、もう一方の親が子どもと直接過ごす時間を妨げる理由にはならないこと」、「感染症の予防のための啓発は、別居親子を対象に限定してなされるべきものではないこと」を明示してください。
② 離れて暮らす親や子が万一コロナ感染した場合や、(片方の親だけでなく)当事者双方が直接の親子の時間をもつことが難しいと判断する場合、関係維持の手段として、ビデオ電話等を利用したリモートでの通話を代替手段として活用する希望もありえます。その場合は、それらの活用手法を明示してください。合わせて機器等が無い者には国がそれらを提供、支援してください。

申入事項3 コロナの影響でどの程度これまでの親子関係の維持ができているのか、国主導の緊急実態調査を実施してください。
「コロナの影響で、面会交流が全くできない」ことが誤解であるかどうかは、調べてみないとわかりません。誤解であるのに国が実態に基づかない指針を示すことも矛盾しています。すでに当事者団体は複数のデータを提示していますが、国側も根拠に基づいた議論のために緊急調査をしてください。

以上