話してみよう! 結婚と親権制度

 単独親権制度の押し付けは、平等原則と親の養育権(個人の幸福追求権)に反して違憲という共同親権訴訟の中での私たちの訴えに対し、国側が単独親権制度に合理性がある理由として「婚姻制度の意義」という言葉で反論してきた。「親権制度の意義」ではない。婚姻中は、法律で夫婦は協力するものと定めているから、共同親権に意味はあって、離婚したら協力できないから単独親権制度でいいよね、という単純な言い方だ。だとすると、婚姻外でも法律で「両親は協力するもの」と書けば、二人は協力できるのか、というこれまた単純な反論が思い浮かぶ。共同親権訴訟の不平等は、法律婚とそれ以外の親どうしの関係を比較して不平等と主張している。

子どものことで協力できない夫婦がみんな離婚するわけではないし、事実婚を選ぶカップルもいる。結婚には愛だけでなく利害もある。愛のない結婚もあるけど、国が守りたいのは愛ではなく利害だというのがわかる。つまり、婚姻内外の法的地位の区別を差別にすることに「合理性」を感じているだろう、と国側に求釈明をして、6月17日の弁論では国側の回答がなされる予定だ。

 単独親権制度が守るのは、法律婚優先主義だというのが裁判の経過の中でますます明らかになっている。別居親が発信するSNSとかを見ていると、「離婚後共同親権」の立法を優先すべきで、「未婚時の共同親権」について主張すれば、保守派が反発するからよしたほうがよいという意見がある。こういう主張は、共同親権訴訟への訴訟妨害というだけでなく、自分は法律婚をしたので、未婚で生まれた子どものことなんか知らない、というあからさまな差別にほかならない。ぼくの娘は婚外子として生まれたけど、こういう主張をする人の子どもよりうちの娘のほうがランクが下だと言いたいようだ。別居親たちは、何かにつけて「子どもの視点で」「子どもの権利条約に書いてある」と言いたがる。子どもの権利条約は親の法的地位の異同によって、子どもは不利益を被ってはならないという発想だ。つまり考えているのは子どものこと「ではなく」自分のことだというのがよくわかる。

 ぼくたちが共同親権訴訟を起こしたおかげか、婚姻外では単独親権しかないということが知られるようになった。結婚が入籍と呼ばれ、男の姓に合わせることは性差別だと気づいた女性は、事実婚(未婚)を選ぶか、法律婚に別姓を「認める」ように法改正をしないとおかしいと考えるようになる。法律婚に別姓を「認める」ように法改正をしないとおかしいと考える人の中には、結婚という特権的地位と自分の主義主張を両立させることを目指している人がいる。この点においては、同性婚についても同じ構図だ。彼らは婚姻外では「共同親権をもてない」のが不利益だと主張したがる。実際、「共同親権をもてない」から結婚した芸能人カップルがニュースになったりする。

 一方、結婚自体が平等に反すると感じた人は、事実婚によって男女平等を実現しようとする。上野千鶴子に家庭内の分業が男女不平等だと言われて気づいた女優が、夫に事実婚を提案したという。夫は親権がなくなれば将来的に子どもに関与できなくなるかもしれないという不安とたたかうはめになる(その程度の知識はネットで出回っている)。上野千鶴子は、事実婚によって男性から親権をはく奪することは、そもそも男女平等に反するとは教えない。性役割の押し付けに抵抗して事実婚を選んだとしても、男性への養育権の保障をどう確保するかについて主張しないと、男女平等とは呼べそうにない。事実婚を選ぶカップルは、共同親権の立法を働きかければすっきりする。

 「事実婚をするようなカップルは男女平等についてよく話し合っているから大丈夫」という主張もまったく根拠がない。事実、事実婚をしていながら、別れる段になって親権を主張され、子どもと引き離されたという相談は時折ある。男の側からすれば「騙したのか」と思う。結局「子育ては女の仕事」ということになる。アメリカの男性の権利運動のイデオローグのウォレン・ファーレルは、「男女雇用機会均等委員会はあるのに、なぜ男女家庭機会均等委員会はないのだ」と疑問を投げかけた(『ファーザー・アンド・チャイルド・リユニオン』)。共同監護法が勃興した1980年代初頭のアメリカを取材した、当時朝日新聞の特派員の下村満子は、「フェミニズムは獲得する平等はやるけど譲り渡す平等はやらない」という男たちの不満を拾い上げている(『男たちの意識革命』)。40年前の不満とは思えない。

宗像充

6月17日当日は、こういった観点から意見交換をしてみたい。非婚の場合の共同親権について論じた民法学者の二宮周平氏に講師を頼み、こと細かく調整してチラシを宣伝したら、本人が演者なのに出席を取りやめた。別居親の集会であれば軽んじていい、という彼の発想に、民法改正の「オピニオンリーダー」の、男女平等思想の薄っぺらさが透けて見える。(宗像充 2021.5.25)

<共同親権訴訟第4回口頭弁論>13:30~ @東京地裁806号法廷