拝啓 森まさこ様 養育費に関する要望書

2020年6月25日

総理大臣 安倍晋三 様
法務大臣 森 まさこ 様
厚生労働大臣 加藤 勝信 様

養育費に関する要望書

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

当会は、子どもに「パパかママか」を選ばせる離婚後単独親権制度の撤廃を求めるグループです。私たちの会の構成は様々で再婚カップルや同居親もいますが、自身の意と反して子どもと引き離され続けている親が多くいます。その中には毎月20万円もの養育費・婚姻費用を払いながらも、子どもと全く会うことの出来ない親も居ます。

当会は、2020年5月29日に公開された「法務大臣養育費勉強会取りまとめ(以降、「勉強会報告」という。)」結果に、強く懸念を感じています。その理由は、本勉強会報告では、養育費の受給率が低くとどまっている原因に一切触れず、提言がされているからです(6月2日に自民党女性活躍推進本部より、安倍首相に対して離婚前に金額などの取り決めを原則義務化するようなされた申し入れや、同居親団体からの申し入れの内容も同様です)。時を同じく6月1日に、元ZOZO前澤氏が養育費の徴収代行サービスを立ち上げましたが、ひとり親からも前澤氏のサービスに対して批判の声が挙がっており、養育費の受給率が低い原因に触れず施策を進めることは、国が新たな問題を産み出すことになりかねません。

勉強会報告で引用された、「厚生労働省・平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、養育費を受給している母子世帯は24.3%、父子世帯は3.2%であり、平成23年の調査結果と大きく変化はしていません。当会としても、このような状況は確かに問題だと感じており、現状を改善していくためにも、過去方策を提案してきました。

私たちは、別居カップルが、経済面でも実際の子どもとの触れ合い・養育の面でも、男女が実質的な平等を確保できるような機会の均等を、共同親権という形で確保するよう、民法の改正を求めています。各国では、養育費の算定表と同様に、養育時間の配分のモデルケースを複数設け、それに準じた迅速な話し合いを促して取り決めを行い、養育費・養育時間ともに履行確保する手段についての立法化が進められてきました。

日本でも、2012年から施行されている改正民法766条に基づき、離婚届けには養育費と面会交流(養育時間)の取り決めのチェック欄が設けられたのは、双方の履行確保が子どものためになるという、民法766条の趣旨に沿った行政措置でした。

ところが裁判所は、月に1回2時間程度の別居親の養育時間のみを指示することしか行なわず、多くの親子関係がその後途絶える事例を私たちは日常的に見ています。実際、家庭裁判所に面会交流を申し立てたうち、(会わないという取り決めも含め)何らかの取り決めができる割合は、民法766条が改正されてもあまり変化はなく、ここ数年55%程度(司法統計)であり、そのうち4割程度が履行されなくなっています(2014年日弁連調べ)。

一方、この間、最高裁判所は養育費に関する新たな算定表を示し、負担額の高額化を図っています。しかしこれは、男性の雇用環境が悪化する中で男性の貧困化や生活破綻を招くだけでなく、女性の経済的な自立とは逆行する措置であり、むしろ男女間の賃金格差を拡大・固定化し、男性の育児分担を困難にします。

養育費の履行割合が一向に上がらないのは、履行確保の手段の問題ではなく、婚姻外単独親権制度により、別居後に子の親としての責任も義務を持つことすら出来ないことが最大の原因です。婚姻外単独親権制度は、戦前の悪しき家制度の名残と考えられますが、1947年の戦後民法の改正から73年も経った現在も、親権のない親の法的地位をあいまいにし、「親権がないから」と親としての無権利状態を社会が放置する制度的な裏付けとなっています。法的に親扱いを保障しないのに養育費のみは「親の責任」として履行確保の法制度だけが先行する、これは特定の社会的グループを狙い撃ちにした重大な差別です。「会うことすらできないのに金だけだすのか」と養育意欲も勤労意欲も失い、いくら履行を促されても、むしろ抜け道を探す方向へと流れ、養育費の履行割合が上がらないのは当たり前です。

実際、他の国々では、子どもの養育時間を親どうしが分け合い、その割合に応じて養育費の額を変動させ(トレードオフ)、親どうしが別れても養育分担ができるよう促す制度をとる国があります(例えば、養育時間の分配が半々であれば養育費負担割合も半々になります(CHILD SUPPORT GUIDELINES AND THE SHARED CUSTODY DILEMMA参照)。こういった方法の中には国連子どもの権利委員会が提唱する手法もあり、ガイドラインを設けてそれを双方に強制することで、養育費の受け取り率の割合が高い状態になっています。

なお「勉強会報告」では、「大原則として、養育費と面会交流は法的に別問題であり、養育費の支払を求める代替として、面会交流を強制される関係にないことの確認が必要である。」とありますが、法務省は24か国の親権に関する海外の法制度を調べてレポートしています。それを見ると、アメリカのニューヨーク州では、裁判決定で養育費を受け取っている同居親が不当に会わせなかった場合、その間、養育費の支払いを停止するか、支払い遅延による責任を免除できるという規定があります。それが当たり前の「国民感情」ではないでしょうか。

「金銭で子どもとの時間を買う」べきでないのは当たり前ですが、「金銭を得るために養育時間を制約する」モラルハザードを今回の「勉強会報告」では避けられません。最低こういったルールを設けるべきです。

このように、共同親権各国の養育費履行確保の手法は、親が金銭面でも実際の養育の面でも、子どもに関心を向けられる体制を、婚姻内外問わず整えることで成果を上げています。仮に行政が未払いの養育費を立て替えることがあっても、このほうが財政負担も低くてすみます。婚姻外カップルにおいてのみ性役割を強制する法案は、むしろ婚姻内外、そして男女間の不平等を助長します。

日本でも夫婦共働きで金銭と養育時間を公平に分担することは、同居カップルでは日常的になされることが増えていますし、同様に婚姻外カップルでも、適切な養育時間配分のモデルケースとそれに応じた養育費の負担割合の基準があれば、共同親権でなくても進められます。こういった制度の導入によって双方の養育分担が実質的な平等に近づくことこそが、男女平等を推進し、子に資することになります。

このため、当会としては、次の事項を要望致します。

1.今回の「勉強会報告」は、「親権のない親」の法的位置づけについて曖昧にしたもので、「ご都合主義」との批判をまぬがれません。現在話し合われている、親権制度に関する家族法研究会、法制審議会の中で、養育時間と養育費の分担と親の地位について関連付けて位置づけを明確にしてください。また、現行法のもとの非親権者は、単に制度上親権者になれないだけです。現行民法下でも親権のない親が親としての諸権利を不当に差別されないよう法整備や行政指示をしてください。それが不明確なままでの養育費の履行確保の諸施策が先行することは反対です。

2.養育費・面会交流の取り決め・履行状況と、履行がされない理由を把握する大規模実態調査を行ってください。その際、再婚家庭も含む養育費の受け取り側や、養育費の支払い側(再婚家庭も含む)もヒアリングや議論に加え、今後提案する施策・法案に反映してください。
なお、別居親団体の中から単独親権の撤廃を掲げていたり、国との係争中であったりすることを理由に、担当官庁が調査や議論から意図的に排除することは、思想信条を理由にした差別ですのでやめてください。

3.今後提案する諸施策や法案においては、養育費だけでなく、養育時間(面会交流)に関する取り決めを義務付けることで、子育てにおける機会均等を補償してください。また諸施策実施にあたっては次の事項を盛り込んでください。
― 「支払わない取り決め」や「会わない取り決め」を避けるため、複数の養育プランを参照しながら、性役割に基づかない親どうしの円滑な取り決めがなされるよう、経済面、および実際の養育面での男女平等を促してください。
― 養育時間が長ければ割合に応じて養育費の額が下がる、養育時間の配分割合に応じた養育費の負担割合をとる制度(いわゆるトレードオフ)を合わせて制度化してください。
― モラルハザードを避けるため、養育費の受け取り側が片親の養育を妨害して子どもを不当に会わせない場合、その間、養育費の支払いを停止するか、支払い遅延による責任を免除できるようにルールを設けてください。

4.養育費は親が子どものため愛情を持って支払われるものです。養育費が100%子どものために使われるためにも、養育費のピンハネビジネスを規制する法整備を行ってください。

最後に、本問題を引き起こしている根本原因は、婚姻外単独親権制度です。当会としては、引き続き婚姻内外問わず共同で養育権を持つよう民法改正を国に求めます。

以上