親権議論の論点整理についての意見書

2020年3月4日
法務大臣 森 まさこ 様
法務省民事局参事官室 御中
商事法務研究会 座長 大村 敦志 様
商事法務研究会委員の皆様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

 お世話になります。私たちは、子育ての男女平等を求めて、婚姻内外問わず、共同親権を求めて活動するグループです。メンバーには主に離婚をきっかけに、子どもと引き離された親が多くいます。
 諸外国から日本の婚姻外単独親権への批判が日に日に高まり、国内外の公論が高まるとともに、商事法務研究会の家族法研究会でも家族法改正の検討課題について審議が続いています。
 多様な意見が表明されるのは一般論として歓迎すべきことですが、「現行法で婚姻中共同親権は望ましいものとされ広く支持されている」という基本的事実を無視した意見も散見されるようになっています。

以下は、2020年2月17日に行われた公益財団法人日仏会館討論会での質疑応答の様子を引用したものです。民間での討論ですが、メディアで周知された研究者の発言は、この間、親権問題に関する意図的な論点ずらしを含むものであり、法務省民事局参事官室が用意する商事法務研究会での論点資料においても同様の指摘が見られるため、ここで紹介いたします。

【公益財団法人日仏会館討論会(2020年2月17日開催)】
(木村草太・首都大学東京教授の発言要旨)
離婚後共同親権親権につき、両者(親)が協力出来るのであれば単独親権であっても事実上の共同親権に出来るので、新たな立法は不要。協力出来ないのであれば、子について何も決定出来ないデッドロックに陥ってしまい、子にとって有害になる。

来場者からの質疑応答で、当会会員Aから以下のような質問がなされるとともに、以下のやりとりがありました。

A「木村先生は上述のようなお考えとのことだが、そうであれば、「婚姻中についても単独親権とすべき」となぜ主張されないのか。上述の議論は、婚姻中についても全く同様に成立するはず」
木村教授「お答えとしては、婚姻中に子について両者で合意出来ないのであれば、離婚すべきということです。民法の教科書にもそのように書いてあります」
A「それはおかしい。離婚すべきかどうかは、経済的問題等様々な要素が絡む話であって、子について合意出来るかどうかだけで決められる話ではない。」

途中まで言いかけた所で、時間切れとなり、司会に発言が止められています。

この件につき、当会として以下のように考えます。


①子に関する事項は重要ではあるが、離婚というのはそれ以外の観点も含めて総合的に判断するものなのであって、「ではなぜ、婚姻中は単独親権より共同親権が望ましいと言えるのか」という疑問に何も答えていない。
②仮に「離婚すべき」というのが正しいとして、離婚出来なかったらどうするのか、全く不明。子の重要事項に関する不一致というのが、離婚の有責主義において離婚事由とされていないこととの整合性が不明。
③結論として木村説は、婚姻外のカップルを合理的根拠なく差別するものであり、明確に単なるダブルスタンダード


 現在、上記のような倒錯した意見が多数表明されています。このような意図的な論点ずらしのため議論がかみ合わないとともに議論が混乱しており、公論によって親権問題の改革を進めるにあたって障害になっています。その結果、例えば「親権とは子どもが養育を受ける権利を実現するため、親の権利という形で逆から表現したものに過ぎず、親から見た基本的人権には該当しない」といった、親の養育権を否定し親の義務ばかりが強調される発言がなされることがあります。

こういった観点からのみ親権論議がなされることについては、子どもが親から生まれる以上、当会としてはそれこそが子どもの権利を無視したものと考えます。親は子どもにとって取り換え可能でないのと同じく、子どもも他の子と変えられません。双方に触れ合うことで成長する喜びがあり、それは権利です。

商事法研究会の民事局参事官室が用意した式次第・事前資料においても、このように、親の存在が選択の範囲であるかのような想定のもと、単独親権制度を温存した上で、どの程度共同親権の範囲を広げるかという論点での問題提起がなされています。しかし、そもそも婚姻内外問わずなぜ単独親権制度を温存する必要があるのか、という点について議論がなされることなく、双方の制度のメリットデメリットを出し合うなど、どちらの制度にも成り立ちの経過があるのであって、無意味です。

そこで以下の各点を指摘するとともに要請します。

【要望事項】

一 婚姻中の共同親権について、まずはその立法趣旨につき国としてはどのように理解しているか、狭義の親権(重要事項決定権)・監護権双方について、日本国憲法第13~14条、24条、第25条、第98条等との関係、また児童の権利に関する条約・女子差別撤廃条約・ハーグ条約等との関係を整理した論点を、商事法務研究会の式次第・事前資料として用意し、同様のものを対外的に公表して公論による議論の叩き台としてください。

二 また、「婚姻中の共同親権については広く支持されている」点について、議論の前提として商事法務研究会の式次第、事前資料として用意し、同様のものを対外的に公表して公論による議論の叩き台としてください。もしそうしないのであれば、理由を明記した論点として商事法務研究会の式次第・事前資料として用意し、同様のものを対外的に公表して公論による議論の叩き台としてください。


三 商事法務研究会での議論を進めるにあたって、まずは婚姻中の共同親権について、その立法趣旨につき各委員はどのように理解しているか、狭義の親権(重要事項決定権)・監護権双方について、日本国憲法第13~14条、第24条、第98条等の関係、また児童の権利に関する条約・女子差別撤廃条約・ハーグ条約等との関係にも全て触れながら、表明して下さい。その上で、この点につき研究会としてのコンセンサスをまずはまとめた上で、議論を進めてください。
 その際、婚姻中の共同親権については幅広く国民の支持を集めていることは、今回の検討に当たって重要な前提であることを確認して、研究会として一定のコンセンサスを取ってください。

四 その上で、婚姻中の共同親権の各メリットについて、婚姻外では実現困難である点はあるのか、あったとしても制度整備や運用の改善で対処し、もともとあるはずの共同親権のメリットは実現できるのではないか、あるいはどうしても不可能な点はあるのか、という観点から議論を進めてください(もちろん、デメリットについての議論も必要だと考えます)。婚姻中の共同親権は子の福祉に資するものであるという理解を前提とすれば、こうしたアプローチが必要不可欠であることは明白です。

五 関係省庁として法務省・厚生労働省・最高裁判所が参加されていますが、今からでも遅くないので、外務省にも参加を要請してください。この問題は、子どもの権利に関する条約・女性差別撤廃条約・ハーグ条約等との整合性についても、議論が必須であるはずです。

六 「親権とは子供が養育を受ける権利を実現するため、親の権利という形で逆から表現したものに過ぎず、親から見た基本的人権には該当しない」といった意見の是非について議論を深めるため、別居親の側の意見を聞く公聴会を開いてください。すでに厚生労働省からは「ひとり親」の公聴会の議事次第という形で、同居親側の意見が資料として届けられており、なぜ親権論議に偏った意見聴取のされかたがなされるのか理解不能です。開催しないのであれば、その理由を表明してください。

七 「離婚後共同親権」という言葉は使用せずに、「婚姻外共同親権」としてください。前者は事実婚等を検討対象から外し、かつ嫡出子・非嫡出子が共同親権のもとどのように位置づけられるかの議論を意図的にスキップするものであり、不適切です。