養育費と養育時間の適切な配分を求める要望書

2020年2月4日

明石市市長 泉 房穂 様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

 お世話になります。私たちは、子育ての男女平等を求めて、婚姻内外問わず、共同親権を求めて活動するグループです。メンバーには主に離婚をきっかけに子どもと引き離された親が多くいます。
 昨年9月、明石市は離婚相手の同意を得た上で給料から養育費を天引きする仕組みや、養育費を支払わない場合に行政サービスの一部制限、支払い命令などに正当な理由なく応じない場合、子供の同意を前提に、氏名公表も検討することを泉市長が公表しています。
 また、昨年12月には、最高裁判所が、別居親の負担を上げる形で、養育費の新算定表を公表しています。支払う側の親へのヒアリングがなされていないまま、それがモデルケースやスタンダードになるという点で、政策実施の影響が全国に及ぶ可能性があるため、私たちは、別居親の全国団体として以下の意見を届けるとともに要請します。


 昨年9月の泉市長の政策発表は、離別カップルにおける養育責任の強化が目的と思います。この目的自体、私たちは賛成です。しかし、こういった政策はもっぱら支払う側が男性であることを前提にしているからこそ公表したものであり、特定の性への懲罰的な対応にほかならず、性差別であるとともに人権侵害行為です。なぜならば、9月の政策公表に関して、もっぱら女性が主体となる、子どもを連れ去った親、子どもを囲い込んで片親に会わせない親に対しても、同様に行政サービスの一部停止や氏名公表をすると述べていないからです。
 2016年の厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査結果報告によれば、母子世帯の42.9%(父子世帯では64%)が養育費の取り決めをしており、協議離婚制度のもと、「取り決めをしている」母子世帯のうち、協議離婚によらない「その他の離婚」(つまり何らかの形での裁判所を経た取り決め)は79.6%(父子世帯では42%)です。つまり現在養育費未払いの親は大部分、何らかの形で裁判所に出向いて取り決めをしながら、支払っていないということになります。

こういった親たちにとってみれば、大部分の親が取り決めもなく支払いもない状況で、なぜ算定基準を引き上げられた上で違反にペナルティーを課されるのか、と被害感情を増幅させる結果になり、それは養育意欲の減退につながります。
 また、面会交流調停の件数は過去10年間で2倍以上に増えています。それだけ子どもと引き離されたことを被害と認識する親が増えたことになります。子どもが連れ去られ、あるいは囲い込まれることがなければ、それを被害と認識できませんから、その件数も増えていることになります。
 そういった親が裁判所に呼び出されて、「子どもに会いたい」と訴えても、養育費の取り決めは審判で機械的に決められるのに、子どもに会う保障もなく、取り決めを得られても、わずか月に1回2時間、しかも同居親の不安感情のまま、子どもに会うのに面会交流支援団体に毎月1万5千円ほどの手数料を支払うことになれば、あまりのハードルの高さに子どもに会うのも支払うのもあきらめようという親が出てくるのは不思議ではありません。つまり、別居親側の実際の養育時間の確保を適切にはかることなく、最高裁や明石市の施策を進めても、支払い率の向上につながるとは限らず、支払い率の上昇が仮に見られても別居親側の養育意欲を損なうマイナスの効果を伴います。
 なお、養育費未払いへの氏名公表等の施策に関しては、それが行政罰ではなく、民法上の債権債務の不履行者へのペナルティーであるということを踏まえれば、他の民法上の債権債務の関係には適用しない氏名公表等の措置を、なぜ養育費の未払い者に限定してするのかについて、明石市側の説明責任が求められます。もしそれが、親の養育責任を行政が問うてしかるべきものであるという考えならば、なぜ養育費の不履行者のみにそれを適用し、連れ去りや囲い込みの実行者に適用しないのかについても、明石市側は説明してください。
 また、氏名公表に対し、子どもの同意を前提するということは、社会的制裁を課すかどうかについて大人がすべき責任を子どもに負わせることにほかなりません。特に支払いを受けていない親の側にいる子どもは、他方の親との関係が途絶していることが想像できますが、この場合、氏名の公表は、自分の親との関係の断絶(つまり子どもに親を捨てさせること)を子どもに強いることになります。これはプライバシーや子どもの意見表明権に名を借りた子どもへの虐待です。
 「養育費と面会交流が車の両輪」との考えのもと、こういった政策を実行に移せば、この度の明石市の政策発表は、片輪走行の車を公道に出すことになります。また、性役割に根付いて「養育費と面会交流が車の両輪」と言うことももはや時代遅れです。「家庭にお金を納めなかった(元)夫に子どもを会わせるのか」という言い分がまかり通るのであれば、専業主婦を前提にした政策自体を取りやめるべきです。経済的にも実際の養育時間の側面でも、子育てにおける男女平等を目指すことが「車の両輪」であることを述べて、以下要請します。

一 給料から養育費を天引きする仕組みや、支払わない場合に行政サービスの一部制限、支払い命令などに応じない場合、氏名公表をするとの政策を実施する場合、同様に、面会交流の不履行時の間接強制金の天引き、不履行者への行政サービスの一部制限、履行命令に応じない場合、氏名公表するとの政策をセットで実施してください。両者の政策は、子どもの同意を要件とするのではなく、明石市長の責任において実施してください。

一 養育費と養育時間の分担を促すため、分担する養育時間の長さと養育費の額を反比例させて連動させる(養育時間の配分が半々であれば養育費が0になる)制度を検討・実施してください。

一 上記の制度の是非について議論を深めるため、明石市長の司会による、当会の代表者も含めた当事者参加の共同親権制度への賛成反対の公開での意見討論会を、明石市主催で実施してください。