法務省家族法研究会宛意見書2019.12.6

意見書

2019年12月6日

法務大臣 森まさこ 様
法務省家族法研究会委員長 様
法務省家族法研究会委員の皆様

共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会

 お世話になります。  私たちは共同親権を目指す団体です。親の離別により子どもと引き離された経験のある親が主なメンバーですが、養育放棄や親による引き離し行為に遭った経験のある親や子も仲間にいます。  

この度、法務省内で法制審議会に向けた有識者による家族法研究会を設置したと聞き及んでいますので、以下の点についての検討がなされるよう、意見をします。

1 親の養育権、親の権利の調整手続きを法文化し、親による同意なき子の連れ去り行為を規制・罰則化するために議論してください。

理由)親権に関する問題は、実子誘拐や親子の引き離し行為が社会問題化した中で、その被害者である親子の訴えによって議論の俎上に上がったものです。海外による国内家族法制への批判も、同様の被害者の訴えが国際問題になっています。この点の問題の解決をまず第一に議論してください。

「子と引き離してよいという合意」がないにもかかわらず、「合意がないから会わせられない」という裁判所の現状追認の姿勢は、一見して不公正であるだけでなく、親どうしの合意形成の手続きの不在を原因とします。それによって親権目的の子の奪い合いが誘発され、双方の合意にもとづいた子育てに関する約束事項(民事上の契約)を踏みにじります。  

子どもにとって何が幸福かを考えるのは一義的には親であるということの確認もないまま、他者である国家(裁判官)が「子どもの利益」について基準もないまま個人的な主観を押し付けることは、親の養育権への不当な干渉であり人権侵害です。親の権利は固有であることを民法に明記し、親どうしの子育てについての意見の違いを調整をする手続きを盛り込んだ民法改正をしてください。

2 単独親権制度と代諾養子縁組制度を撤廃し、親権制約の民法上の規定と単独親権制度の民法上の二重基準を解消してください。

(理由)「婚姻中」のみに共同親権を限定した単独親権制度は、制度上一方の親が親権者でなくなることを規定したにすぎず、そのことで子の養育への関与が否定されてよいという規定は民法上ありません。

にもかかわらず、実際には子どもと離れた親の養育を否定して親子を引き離す家庭裁判所の慣行は定着しています。それだけでなく、親権のない親の同意なく元配偶者の再婚相手の養子に子どもがされる(代諾養子縁組)民法上の規定があり、その場合には、最高裁の判例で親権者の変更が不可能になっています。

親権者の親権を制約するには、親権停止にしろ、親権喪失にしろ、裁判所の審査を経るべきことが民法上規定されています。その結果、制度の問題で親権がないにすぎない親が、親権停止や親権喪失の親と同程度しか、親としての権限を何ら行使できません。自分とはまったく関係ない元パートナーの再婚で子どもが見知らぬ人の養子に入れられ、その結果裁判所は引き離しを正当化します。

そして他人なら認められるわが子とのふれあいが、親であるが故に規制されるという倒錯した状況が生じています。明らかにダブルスタンダードです。 「婚姻中」のみを共同親権とする単独親権と代諾養子縁組の規定を撤廃し、親権を制約する場合は、親権喪失や親権停止の他の民法上の審査基準に沿うよう民法を改正してダブルスタンダードを解消してください。

3 戸籍制度を廃止するための議論をしてください。

理由)2で指摘した代諾養子縁組制度や、再婚養子縁組夫婦から親権のない親への親権者変更の手続きがなされなくなることは、戸籍制度に基づいた嫡出子保護の側面から正当化されてきました。その場合、民法上の父母が、何ら民法上の規定もないのに養父母に読み替えられるという、適当な法解釈が判例の名のもとにまかり通っています。

単独親権制度も、子どもは二つの戸籍(家)に属すべきでなく、一つの戸籍(家)の形に適合する家族関係に子どもを当てはめることが「子ども福祉」であるとの、戸籍制度に基づいた先入観によってのみ正当化されるにすぎません。戸籍(家)から一方の親が外れれば、共同親権になっても「部外者」としての差別意識が再生産されます。

手続法である戸籍制度が実態法である民法を規定するなど本末転倒です。戸籍制度の廃止を議論してください。

4 DV・虐待の防止については、親権選択の問題としては議論せず、男女平等に基づいた適正手続きを保証したDV防止策を整えるよう別個に議論してください。

理由)共同親権によってDV被害が永続する、との懸念から、単独親権制度を存続させ、共同親権にしても選択的共同親権にすべきとの議論があります。しかし、現在の裁判所の判断が、子どもを確保した側を自動的に親権者にするのは、DV被害者支援団体や弁護士事務所のホームページにそのように書いていることからも明らかです。

単独親権者にDVや虐待の加害者が多く含まれているのに、このような議論は前提として成り立ちません。 実際に当会には、女性配偶者からの暴力被害の経験があり、また同居親側による子の虐待の証拠を持っているにもかかわらず、子どもに会えない親からの相談を多く受けます。

現在のDV施策は、女性しか被害者として想定していないため、保護施設に避難できるのは女性のみで、男性は子を連れて逃げるのが困難なため、親権者となれないという事情があるからです。保護が優先されるので、その後の親子関係の回復は軽視されます。 内閣府の最新の調査によれば、女性の3人に1人、男性の5人に1人がDVの被害を訴えており、過去1年間のDV被害の申告数は男性の比率のほうが高いことを考えると、こういった性差を前提にした保護施策の不均衡は、加害者の加害行為を公的機関が支援する事態を引き起こしています。

また、現在のDV施策は民事対応であり、刑事的な手続きが適用されることはまれです。先に被害を申告した側の言い分のみで支援措置がなされ、保護命令手続きを経ない限り、加害者とされた側の言い分を聞き取る手続きがありません。そして一方の申告だけで自治体窓口でなされる住所非開示の支援措置には取り消しの手続きがありません。これらは虚偽申告の温床になるだけでなく、加害者とされた側が社会的に排除され、さらに子どもと引き離されることによる暴力の誘発を生んでいます。根本的な暴力防止にはなっていません。

今年東京家庭裁判所の前で殺人事件が起きたように、実際に子の奪い合いによる事件は度々起き、一方の親から引き離された子どもの虐待死ももはや珍しくありません。これらは単独親権制度のもとで起きており、それを温存させても今と同じく暴力は起き続けます。 親権制度の改革とは別個に、女性と同様・同質の男性の側への支援を前提としたDV施策を整えるよう、男女共同参画局に促してください。  

5 男女平等の観点からの共同養育の取り決めがなされるよう協議支援がなされ、性役割に基づいた養育費の徴収のあり方や、不必要な面会交流支援がなされないように議論してください。

理由)養育費と面会交流は車の両輪ではありません。こういった言説は「あなた払うほう、私育てるほう」という性役割に基づいた固定観念に由来します。 本来であれば、経済的な分担と同様に、実際の子どもの面倒を見る時間も平等に分担されてはじめて「車の両輪」と言いえます。

言わんや、子どもを会わせない事態を放置しながら、貧困問題解決のため養育費の額を1・5倍にした新基準の算定表を作るなど、現に養育費を支払っている親に懲罰を課して養育への意欲を減退させることになります。また、男性に依存して疑問に感じない女性が増えれば、女性の社会進出を疎外します。貧困問題は稼ぎの悪い男性が作り出しているのではなく、社会構造の問題であると同時に、親子を引き離して別居親の養育への意欲を奪い続ける家庭裁判所が作りだしています。  

また、引き離す側の拒否感情に対応するために面会交流に人を介することを指示するなら、それは家庭裁判所がすべきことです。民間団体にその役割を負わせて責任逃れをすべきではありません。現在の月に1度3時間という面会交流基準が、家庭裁判所出身者の団体の支援基準をもとにしていることを考えると、これは癒着であり利益誘導です。

なされるべきは、親の権利の調整規定を備えた共同親権のもと、養育時間の公平な分担をもとにして、個々の事情に応じた柔軟な養育時間の配分の複数のプランの提示することです。それがあってはじめて、裁判所は子どものための話し合いを強力に斡旋できます。単独親権制度を温存させたまま、性役割に基づいた面会交流支援団体に支援を拡大させるなど、利権のぶんどり合戦にしかなりません。

6 議論にあたって、別居親団体へのヒアリングを実施し、代表者を会議に参加させてください。

理由)過去、共同親権を唱える別居親団体への政府によるヒアリングは一度もなされたことがありません(面会交流の推進を唱える団体のみに恣意的なヒアリングがなされたことはあります)。

私たちの団体は、単独親権制度の最大の被害者団体であり、家庭裁判所と面会交流支援の最大の消費者団体です。きちんと意見を聞く手続きをとってください。